第五章

上級管理職もグル



 「データもの編集」の部署に“積み残された”まま、さらに時間ばかりが過ぎていった。「“積み残された”まま」というのは、会社が「本人希望」の制度を始めて間もなく、最初の調整人事異動をした後、会社は労働組合にこう説明したからだ。「“積み残し”は10人ほどだが、今後順次調整していく」。“積み残し”とは、この時の人事異動で異動の希望が叶わなかった社員のことである。結局、私については最後まで対処されることはなかった

 具体的なケガとは違い、大出血しているわけでもない。中々分かってもらえないのもある意味仕方がないのかなどと思い、眼科医に診断書を書いてもらい、安井部長に提出して、「こういう状態だから今の仕事から外して、異動させてくれ」と訴えたが、なんとそれも無視。それどころか、後で分かったことだが、その診断書はそのまま行方不明になっていたようだ。(後に、8年もの間、配置転換などの対策を取らず、私の症状を悪化させるに任せていた会社の責任について問うた時、面談した足立、倉岡らは当初「そんな診断書が提出された記録はない」と言い、「では何処に行ってしまったのか?」と聞いても答えられず、更にあとで「君の言う通り、診断書が見つかった」と言ってきた時も、それがどこにどうしてあったのかについての説明はなかった

 その診断書から更に1年、2年と時間が過ぎ、いよいよ出社しても大した仕事は出来なくなってきた。調子が悪い時には、電子メールのチェック程度でも辛くなってきた。人のプライバシーを、無断で売る商売に対する罪悪感、嫌悪感も一向に払拭できなかった。「頼むから営業か、同じ編集でもある程度ペースを自分で配分できる書籍にまわしてくれ」と何度も会社に願い出た。2度ほど変った直属の上司にも「異動の希望を前々から出していて、会社の対処を待っている」と話した。話したが放置された。とりあえず、話だけは聞いてくれているような気がしていたが、今にして思えば「まあ“ガス抜き”に話を聞くフリだけしてやればいいんじゃないの?」てなもので、具体的にどうこうする気などさらさらなかったのかもね。
 「そんな会社、さっさと辞めてしまえばよかったじゃないか」という人もいるかも知れない。しかし、現実には年齢も30代後半になってきていて、しかも長引く不況の最中であり、世の中の環境も悪すぎた。ましてや、健康状態がすでに障害者一歩手前だ。何をどうしたらいいのかわからなかった。出来ることは、タンコン社の良心に期待して、環境改善を要望することだけだったのだ。

 更に痛みは増していき、せっかく出社しても半休を取って早退したり、酷い時には朝、会社につく手前でギブアップして、「今日は痛みが酷いので、お休みを下さい」と連絡をいれてひき返すようなことまで度々になってきていた。それでも、タンコン社は何も改善策を取ろうとはしてくれなかった

 タンコン社は、少なくとも私が入った頃には、労働組合がしっかりしていて、社員の権利が守られている会社だった。少なくともそう見えた。だからと言って、自分がこんなに壊されてしまうまでは、そんな「権利」を行使しようとは思いもしなかったが…。
 タンコン社には、「傷病長期休暇」「社内労災規定」という制度があった。「病気やケガの時の長期休暇」と「国の労災制度とは別に、会社と組合が認めれば取れる労働災害補償」というものだ。「もう、これしかないか?」。わらをもつかむ思いで、「傷病長期休暇」の申請をすることにした。しかし、このことまで会社に悪用されるタネになるとは思わなかった

 ある年の年明け、安井に代わって部長となっていた永末篤信に相談した。
 「以前から目の不調については相談していたが、随分待っても異動もさせてもらえないし、いよいよもって辛さに耐え難いので、できれば来年度からしばらく療養のため休暇を取らせて欲しい」。永末は、「役に立っている君に休まれるのはイタイ。もう少し頑張れないか?」などと調子のいい事を言ったが、私は心身ともにもう限界だった。「ならば何とか今担当してもらっている仕事のキリが付くまでいてくれ」と言われ、結局7月まで引き止められた。
 いざ7月になったらまた少し引き止められたが、「申し訳ないが、ジンジン、ズキズキと疼いて夜寝付くのにも苦労するような状態なので、本当にもう勘弁して欲しい」ということで、総務に長期休暇の申請を出すことを認めさせた。

 永末が「総務には話しておいたから、後で直接に相談に行ってくれ」というので、総務部へ行った。この時の総務部長もまた、代わって間もない足立秀文だった。状態を説明し、休暇を願い出るとともに、「以前からお願いしている改善、異動の要望もそのままなので、この機会に何とかして欲しい。そうでないと、やがて復帰してもまた元に戻ってしまいかねない」と訴えた。
 同時に、「ここまでの経緯を考えて、“傷病長期休暇”ではなく“社内労災休暇”ということで救済してもらうことは出来ないのか?」と聞いてみた。頻繁な医者通いにかかる費用も結構な負担になっていた。しかし、総務部長になったばかりとはいえ、足立はこの社内労災規定をよく知らなかったようで、「とりあえず傷病休暇で休んでもらって、認められたら労災に切り替える」という話になった。
 「申請用の診断書はどこでもらってくればいいでしょう?」と聞くと、足立はそれさえ分かっていない様子で、「あとで指定の医者を連絡すると思う」と言った。「何しろもう絶え難いので、とりあえず有給で休ませてもらう。連絡をもらってから指定の医者に行き、その診断書を会社に送る」ということになったが、1週間もしてから、「どこに医者でもいいということになった」と連絡が来た。何故、その程度の確認に1週間もかかったのかの説明はなかった

 診断書をどこの眼科でもらうかにまた迷った。会社が移転してしまったので一番長く通っていた医者からはしばらく足が遠のいてしまっていた。移転先の近くで行ってみた眼科もいくつかあったが、どこもドライアイ用の目薬をくれる位で、「後はとにかく規則正しい生活をして、睡眠を十分にとることです」「最終的には休むしかありません」などと言うばかりで、大して効果的な治療はなされなかった。そんなわけで、いつしか自分で対症療法用の目薬を買って使いながら、ただ我慢しているようになり、“かかりつけ”がない状態になってしまっていたのだ。だから、会社がここと指定する医者があれば治療含めてそこに行ってみても良かったのだが、何しろ足立総務部長の話も頼りなく二転三転だったので、結局移転前に長く通っていたところに行ってみることにした。同時に、長期休暇の申請という大事なので、セカンドオピニオンもあった方が良かろうと、自宅近くでやはり某国立大学とつながりが深いという眼科に行き、診察を受けた。そしてどちらからも、いわゆるドライアイと異常に強い眼精疲労症状ということで、「ここまでになるのは珍しい」「症状緩和のためには休むのが一番」と言われ、「治療のための休暇を要する」という診断書をもらい、足立に診断内容を説明して、長期休暇の申請をした
 この時点で「労災」と認めてくれることを願ったのだが、足立総務部長は後ろ向きの反応だった。それはそうかも知れない。私の労災を認めるというのは、会社が何年もの間、労働環境改善の要望を無視してきたことを認めるということだからね。しかし、事実は事実である。率直に認めて改善を約束して欲しかったのだが、返事はグズグズだった。足立があまりにも総務としての知識不足だからか、助っ人として一緒に面談に出てきた副部長の倉岡功は、「“社内労災休暇”を認めるのは難しいが、労基署に国としての労災補償の申請をするなら、申請用の用紙はやる(!)」という。つまり、「会社はあくまで責任とらないが、国に申請したければ勝手にやれ」というのだ。そんな言い草ってあるのだろうか?

 “社内労災休暇”と、国の労災認定があるのでまぎらわしいが、タンコン社の“社内労災休暇”についてちょっと説明したい。この制度、昔、組合が思いっきり要求したのか、かなり組合員に有利な制度となっており、「労働に起因する一切の障害を労災と認める」「会社が反証出来ない限り、労災と認める」というような威勢のいい制度になっている。つまり、これまで会社が環境改善に努めてこなかった以上、私の申請が拒まれるいわれはないはずなのだが、そこがタンコン社。そこが現在会社を仕切っている“グループ”の皆さん。「謝れと言われても謝りたくない」体質が顔を出してきたわけだ。
 そんな総務の無責任な態度に腹を立てながらも、何しろ、目が辛くて仕方がなかったので、仕方なくまずは“傷病長期休暇”で休むことにした。もちろん、「一応ドライアイ、これまでの業務内容に起因する異常に強い眼精疲労症状ということで休ませていただくが、ここまで酷くなった原因は、何年も前から相談させてもらっていることに対処してもらえない精神的なものの積み重ねも要因と思っている。この機会に是非とも善処して欲しい」とも言い添えた。

 「休めるようになったんだから良かったじゃないか」と言う人もいるかもしれない。しかしそれは、他人事だから言えることだ。「休まなくて済むように」してもらえれば、その方が良かったに決まっている。しかし、タンコン社は何年にも渡って苦情を出しても、何度改善を求めても一切何もしてくれなかったのである。これ自体、法的義務を果たしていないことになるはずなのだが、彼らに罪の意識など微塵も無かったらしい。

 長期休暇に入っても辛かった。本当に辛かった。休み始めて1週間、2週間…、1ヶ月経っても、中々回復してこなかった。「俺はどうしてしまったんだろう?」「本当にただの眼精疲労とドライアイだけなのか?」「もっと違う病気ではないのか?」「職場ストレスで身体的にもこんなにも痛めつけられてしまうものなのか?」などといろいろ考えてみるが、何しろ普通の目の検査から、眼科以外の検査まで受けても特に外科的な障害が見つけてもらえないのだから、「結局過度のストレスということか…」と思うしかない。思うしかないが、いくらもどかしくても自分ではどうすることも出来ない。中々心療内科など行く決心もつかない。「さすがにここまで来れば、少しは会社も考えてくれるだろうか」と信じるくらいしかない。ただただ、何も出来ないまま時間だけが過ぎていった。(聞くところによると、強いストレスで症状が以上に強く出てしまうことがあるのは実は医師の間では知られていることだそうだ。が、私は主治医に「会社でもう10年以上も苛められ続けています」とは言えないでいた)
 休んだからといって、遊んでいられるわけではない。目が使えないということは、ほぼ何もできないということなのだ。私は、とにかく目を休ませることに専念した。テレビも画面を見ずにほとんど音を聞いているだけ。好きな映画やビデオも見られない。クルマの運転も出来ないし、遠出も出来ない。私はスキーなどのウィンタースポーツが好きだったが、当然行くことは出来ない。行く気にさえならなかった。
 それだけ気をつけていても、目が熱い。チクチク、ズキズキと痛む。目の表面が焼けるような感じ。奥の方に串でも刺されている感じ。いっそ自分の目をくりぬいてしまいたいような衝動にさえ駆られるが、さすがにそこまではできるわけもない。軽く押え、じっとしているくらいしか出来ないのだ。
 最低限の生活をしているだけでもいつもズーンと重い。いつでも目ゴミが入っているような、いかにも表面が乾いている感じ。そうかと思うと急にチクチクする感じがひどくなり、涙がボロボロと出てくる。とてもではないが、人前に出る気にもならない。
 「ひたすら回復を待っておとなしくしているしかないなんて…」「失明だけは勘弁して欲しいよなぁ…」。そんなことを思いながら毎日を過ごす気持ちは、決して“休暇”などではない。ある意味、それ自体が“拷問”だ。ドライアイはあくまで症状の1つ。回復してこない原因はストレスかと思っていても、そのストレス解消の術がないのだ。
 しかも、外科的な症状と違い、何しろ本人が気が狂いそうなほど苦しんでいても、傍目からはそれがわかりにくい。ドバドバと出血でもしていれば、「そりゃ大変!」と思ってもらえるだろうが、神経的な症状は説明自体がしにくい。分かってもらえないジレンマが尚更症状を加速する。

 中々思ったように回復せず、結局、何だかんだで半年近くも休んでしまった。
 それでも、一時よりは回復し、ある程度は耐えられるレベルになってきたかなと思ったのと、さすがにこれ以上は休んでいること自体も辛くなってきたことで、「少しずつでも頑張らなければ…」と、足立総務部長に復帰のための面談希望の連絡をした。そもそも、私としては会社が以前から要望している点について改善の努力、対応をしてくれるのなら、もっと早くに復帰したかったのだが、何しろそういう話し合いが全く持たれなかった。それで、その“話し合い”の催促をしたわけだ
 ところが、足立は面談には応じず、「復帰するには医者が完全に回復し、再発の心配はないと保証することが必要だ」とメールをよこした。おいおい、そりゃそもそも職場環境の改善をおざなりにしている会社の言うことではないだろう?一番の問題、原因は会社が職場改善を怠っていることである。私が勝手に体を壊したわけではない。職場環境の改善は会社の法的義務である。それを長年に渡って怠っていながら、居直り、責任転嫁もいいところだ。責任感ある会社なら、「何年も待たせて申し訳なかったが、こういう対策を取るようにしたから、少しずつでも職場復帰してくれないか」というべきところじゃないのか?
 まだ回復しきらない目で数回メールでやり取りをしたが、全く埒があかない。私本人との直接の面談を求めたが、「とりあえず休暇期間が終わって宙ぶらりんになってしまうので、休暇期間追加のための診断書を出せ」という。仕方がなく、また医者から診断書をもらってきて、会社に送った。しかしその後、足立からの返事は来なかった全く放置。単に期間だけ延長して、復帰についての話は先送りにするつもりか?「何か変だ」と感じるようになった。

 あろうことか、何も返事の来ないまま、何とまた3ヶ月が過ぎてしまった。「どういうつもりなんだろう?」と思っていたら、思い出したように足立から連絡が来た。「劇的な症状の改善がなければまだ休みたいだろうから、また診断書を出せ」という。一見、優しそうな言い方だが、とんでもない。自分たちの取るべき責任を取らずに、問題を先送りしているだけだ。「休みたいだろうから」だって?何だそれは?会社は俺を働かせたくないのか?
 「考えている原因と症状からいって、劇的な回復というのはないと思う。しかし、本人としては少しずつでも職場復帰したいので、何度も言っているように私本人と話す時間を作り、今後の職場環境や職務内容を考えて欲しい」と答えたが、また「もう3ヶ月期間延長を認めます」と言ってきたきり、また足立からの返事は来なかった

 「いったい何を考えているのか?」と思っていたら、更にまた2ヶ月もしてから唐突に、「労災認定の件については検討中ですので、しばらくお待ちください」という連絡が来た。しかしこの時、私は、「ああ、検討していただいているのですか。ありがとうございます」とは思わなかった。「1年近くも放置しておいて、いきなり何なんだ?」としか思えなかったのだ。何とおざなりなことかと腹が立つだけだった。「これはもう仕方がない、自分だけで話をしていてもノラクラと引き伸ばされるだけだ」「引き伸ばされた状態で、また休暇の期限が過ぎてしまったらどうなるのか?」と心配し、会社の労働組合に苦情を出した。「こういう事情で長期休暇をもらったが、その間に対応を考えてくれと頼んでいた職場環境改善の話も職場復帰の話も全く進まない話し合いの場さえ持たれない。こんな扱い方はどう考えてもおかしい。タンコン社は私に働かせる気がないのか?」と。
 タンコン社の労働組合は、専任の執行部がいるわけではなく、社員である組合員が持ち回りで、1年交代であたっていた。この年の役員には、前委員長の高田武彦や大倉珠美がいた。委員長は十条忠。まだ若い中途入社の社員だった。
 高田と大倉には、こんな休暇状態になってしまった後、「自分は会社がきちんとしてくれるなら1日も早い職場復帰をしたいと思っているが、事ここに及んでも会社の対応には全く誠意が見られない。どうしたものか?」というような相談をしたことがあった。それから更に時間が経っても、こういう現状だということを話した。
 「会社がきちんとしてくれないからこうして体調を崩し、“傷病長期休暇”“社内労災休暇”という申請をしているのに、しかもまだこちらの方が半分気を使って“10年以上もイジメ、嫌がらせに遭って体調崩しましたので責任とって下さい”ではなく、職場環境改善という前向きな話し合いで解決しようとしているのに、全く責任を感じるどころか、何とか逃げよう、自分たちの責任はうやむやにしようという姿勢しか見えない。それどころか今度は、本人が早期職場復帰を望んでも、それさえきちんと対応しようとしない。これはおかしい。労働組合からも一言言ってもらうわけには行かないだろうか?」と相談すると、「なるほどそれはおかしい。では組合として話をしよう」と言ってくれた。

 ところがだ。組合からクレームがつくまでに至っても会社はなんだかんだと言い訳をして、本人と直接の面談に応じようとはしなかった。十条たちは一生懸命問題解決のために会社に、「早急に職場復帰に向けて対応を考えるように」「経緯からして労使協定に定める労災に認定されるべきであるから、その手続きするように」と何度も申し入れてくれたらしいが、会社は相も変わらずノラクラだったと言う。1度などは、労使協議の場に責任者たる犬山が欠席し、怒った高田が「これでは話が出来ない」と電話をかけて呼び出し、「経営者としてあまりにも無責任な態度だ」と路上で怒鳴りつけたという。
 もっとも、そこまでやってくれたことが良かったのか、会社を、というか犬山をかえってムキにさせただけという、“裏目”に出たのかは分からないが…。

 大倉も腹を立てていた。「結局、事実関係に関係なく、会社は労災認定したくないだけなんだよね。しかもバカだから、先に“責任を認めたくない”という結論有りきなのを話している内に口に出しちゃうんだよ。ホントにバカだよね」と言う。

 そうこうする内、今度は会社は「厚生労働省から、長期休暇から復帰する人間に対するケアの仕方のガイドラインが出た。これにそって復帰の手続きをさせてくれ」などと言い出した。引き伸ばし策なのがミエミエである。(後で分かったことだが、この“ガイドライン”というのはメンタルへルスに関するものだったようだ。それを正にその状態の私への攻撃に悪用しようとするとはね)「それはまだ社内規定としては出来ておらず、これから組合と協議することになっている事項だろう。何で決定もしていない規定にあわせなければならないのか?そもそもすでにある規定、労働協約を会社が無視し、誠意を持って対応しようとしていない状況で、何故こちらばかりが会社の言いなりにならなければならないのか?」と疑問を呈しても都合の悪いことにはのらりくらり、ズルズル。間に入ってくれた高田たちがイラついても、埒があかなかったそうである。
 やがて、高田から「やっと1度本人と話す機会を設けるということになったので、会社に出て来い」という連絡が入った。もうすでにこの辺でオカシサ爆発だよな。本人が「職場復帰したい」「働きたい」と言っているものを、会社がさせまいとしているんだから。

 行ってみてまた腹が立った。その時同席していた犬山克尚も白河史治も、これまでの面談の際に、私の改善要望を再三聞きながら、その場しのぎに体裁のいいことを言うだけで、具体的な対策もせず無視してきた担当者本人たちである。何年も前から事情説明を受けていながら、私がこんな状態になるまで無責任に放置した、私から見れば間接的にせよ“加害者”。総務の足立もいた。彼らは一方的に私の症状やら、どこの病院に通っているのかやら、事細かに聞いてきた。おいおい、労災認定の相談じゃなかったのか?悪意アリアリである。しかし、私はまだこの時には会社の“企み”の酷さを想像できないでいた。まだ、彼らにもいくらかは“良心”というものがあるだろうと思っていたのである。これは大きな間違いだった。

 後日、高田からまた連絡があり、「労災認定の問題もあるが、何しろ認められている休暇期間がもうすぐ終わってしまう。終わってしまえば宙ぶらりんの立場になってしまう。会社は復帰にはどうしても医者の保証が必要だと言っている。どう対処すべきか、組合の顧問弁護士と相談してみてはどうか」と言ってきた。
 全く情けない管理職どもだと思った。そんなに自分の責任で職場環境改善するのが嫌なのか。自分たちが社員からの改善の要望に応えず、放置してきたことを指摘されたのがそんなに気に入らないのか?そんなに認めたくないのか?「謝れと言われて謝る」ことになってしまうのが嫌なのか?本当のところ、私は労災として認定してくれなくても良かった。要は、「今まで我慢を強いてきてすまない。今後、できる環境改善はするから」と一言言ってくれればそれで良かったのだ。体調が悪くても悪いなりにがんばろうという気にもなれただろう。しかし、彼ら無責任な管理職たちには、自分たちの落ち度を認めるということがどうしてもしたくないことだったらしい

 組合の顧問弁護士、宇津木氏の話は、「会社は復帰には医者の保証が必要だと言ってるんでしょ?会社の言うように、医者に文書で出してもらえばいいんじゃないの?復帰時の留意点くらいを文書にしてもらってさ」「労災認定については、会社の“労災協定”というのを読めば、会社は労災と認めざるを得ないと思う。でも会社としては落ち度を認めたくない。だから困ってんだよ」「とりあえず職場復帰は復帰で、労災とは分けて話を進めた方がいいんじゃない?」といった程度で、至ってお気楽なアドバイスであった。だからね先生、職場環境のせいでこうなったのであれば、医者にしてみれば原因そのものの断定も難しいわけで(仮にその可能性が極めて大と言いながらもだ)、ましてやその疑わしいと思われる原因も払拭されていないのに、「もう大丈夫」と保証しろと言われて出来るわけないじゃないですか。それはよほどいい加減な医者でもできないと思いますよ。交通事故で骨折ったけど、レントゲン撮ったらくっついてるみたいだからOKとかいうのと事情が違うんですから。「まずは原因と考えられる要因からできるだけ離れてみて」というのは至極当然のアドバイスでしょう。それを会社に求めているのに逆に何年も何年もその環境に閉じ込められてきたんですよ。それを改善してくれと言っているんですよ。
 弁護士ってのも、「所詮は他人事」のノリなのかね?

 何しろこの弁護士の先生も煮え切らないので、これまでの経緯から、会社の「お前の話だけでは不十分」みたいな態度に強い不信感を覚えていた私としては、診断書だけで都合5通も出してりゃ十分だろうという気もしたのだが、仕方なく医者に頼んで、「職場復帰に向けての所見」を書いてもらって会社に渡すことにした。
 案の定、医者は「本人が職場環境、業務内容によってこうなったと思っているような症状について、環境はそのままなのに、医者として完治したと言う保証だけしてくれと言われても、それは難しい」と言った。そりゃそうだろう。「では、所見として現状と、職場復帰時に際しての留意点というようなことではどうでしょう?」と頼んで、「まだ完治したとまでは言えない」「できれば配置転換することが望ましい」などと書かれた文書をもらった。

 ところが会社は「これでは不十分だ」と言い張った。何だよ。文書を出せばいいと言ったのはそっちだろうに。今度は「医者と直接に話をさせろ」という。さすがに違和感を感じた。診断書、所見書を出させて、今度は話をさせろとはどういうことだ?ただただ一生懸命引き伸ばして、悪意を持ってアラ探しでもしているようにしか思えない。一方的に個人情報の提出ばかりさせて、職場改善はせずに何年も放置しているような会社にこれ以上何を許せと言うのだ?そもそも最初に出した診断書だって、せっかく渡してもそのまま行方不明にしていたような会社のクセに。まず謝罪するのがスジじゃないのか!

 高田から連絡があり、また宇津木弁護士の意見を聞きに行こうということになった。高田はこの弁護士を随分と信頼しているらしい。
 「会社がいい加減なのに、何でこっちばっかりあれこれしてやらなきゃならんのだという唐島さんの気持ちは分かるよ。でもまあ、それを拒んでいてもむこうもムキになるだけで、話が進まないんじゃない?」と言われ、結局、会社が何を聞きたいのか質問書にしてかかっている眼科に送り、文書で回答してもらうことにしては、ということになった。なんとも釈然としなかったが。

 ところがこれが、予想外の展開に繋がっていくのである。

 医者への質問書を認めてからも、全く話は進展しない。何の連絡も来なかった。かれこれ1ヶ月も過ぎてから、組合の高田に、更に1ヶ月も先の「8月17日になったら回答する」と言ってきたという。「休暇を延長している、というか、やむなくさせられている期間は7月までだよ。その後はどういうことになるの?」と尋ねると、高田は「会社の都合でそうするんだから、業務命令で自宅待機ということだろう」という。いったい、そうまでして引き伸ばす意図は何だ?
 私が1つ心配したのは、7月にはこの組合の執行部が改選されてしまうことである。持ち回り執行部の任期切れでメンバーが替わるのだ。十条、高田らは、「病状、治療経過など、個人情報に関わることだから」と、この問題を組合の中でも一部の執行部の間だけで対応してきてくれていた。メンバーが替われば、また一から事情を説明し、理解をしてもらわなければならない。目に見えるケガと違って、こういう症状は本人の痛みや苦しみを分かってもらうことがそもそも難しい。それ以上に、自分が総務局長に「君はいじめられているんだよ」などと言われるような状態で何年も我慢を強いられ、精神的にも限界であるなどということを、改めて人に説明するということそのものも耐えがたい負担なのだ。
 それともう1つ。高田は中々に組合活動の筋を通す人間で、弁も立つ方だったが、もちろん社員全てがそうとは限らない。無責任経営にベッタリの人間が執行部になったらどうなるだろう?それを考えると現執行部のうちにケリをつけて欲しかったが、会社は頑なにそれを拒んだらしい。この辺から悪意を持っていろいろ画策してたんだろう。

 やがて高田から、「自分たちは任期が切れてしまったので、新執行部に事情と経過を説明した。あとは自分でも1度彼らと会って、状態を説明してくれ」と連絡があった。

 それと前後して、私が「労災とは認めてもらえないのか?」と思う根拠として出していた、“過去の職場環境改善についての要望と会社の対応についての記録”に対する回答が返ってきた。ただ一言、驚いた。呆れるほど一方的な“ウソ”のオンパレードだった。「そういった改善要求はなかった」「唐島だけに業務集中したことなどなかった」「記憶が定かでない」「唐島が職場で苦情を訴えたことなどなかった」などなど、無責任発言100%。私が様々業績改善のための提案を行ってきたことも自発的にスキルアップの努力をしてきたことも、それをタンコン社が都合のいい時だけ散々便利に使ってきたことも、「今後の業務遂行の為にこういう修行をさせて欲しい」と度々嘆願したことも記憶にないのだそうだ.「唐島は元々やる気もない役立たずの社員だった」ということで孤立させ、何が何でも全ての面で私を一方的に悪者にする作戦らしい。怒るというより、もう情けなかった平気で人を陥れるためのウソを付く管理職と、それを労災認定拒否の根拠だと言い出す取締役たち。この会社は、上層部までこんな人たちなのか?
 中でも呆れたのが、例えば「サービス残業が頻繁にあった時期もあった」という点についての回答。「当時の営業部門では業務時間内に空き時間(つまり営業先から次の営業先への移動時間のロスなどのことらしい)が生じることもあったので、残業はつけないのが普通と認識されていた」などと書いてある。そんなことを従業員に「認識」させていたなら労基法違反じゃないのか?同じ時期に同じ部でとんでもない残業代をつけていた者もいたじゃないか。いい加減な言い訳にもほどがある。そんな言い訳にならない言い訳だらけ。とても経営者の書いた文書とは思えないお粗末さだ。
 現在の上司である永末も、随分と私に言っていたこととは違って、私に不利な発言をしているようだ。「自分の不正は大目に見てもらったから、会社のお役に立とうとしてるんだよ」と高田が言う。「どういうことだ?」「交通費をちょろまかしていたのがバレたんだよ。中途入社以来何年も、使っていないバス代を請求してたのがバレたけど、それを許してもらったのさ。その見返りに、お前の労災を認めなくて済むように、会社に有利な発言をさせられてんだろ」。そんなセコイやつのために、私がまた苦しめられるのか?
 休暇取得の相談をした時にちらりと足立に話した、下島に受けた暴行の話についてまで書いてあった。労災と関係ない話なのにね。しかもその内容に心底呆れた。「唐島が酔って女子社員を殴るなどの暴力行為を行ったので(はぁ?)、下島が止めに入ったところ、たまたま目に当ってケガをさせてしまったもので、金銭を払って示談になっている」などと書いてある。ここまで悪質だと、ただただ呆然とするしかない。そんな一方的なウソが、会社の“調査結果”だって?私は酒に飲まれて暴れたことなど1度もない。酒癖の悪いので有名なの自体、下島のはずである。事実をここまでねじ曲げるとは。これじゃ会社ぐるみの名誉毀損行為集団暴力じゃないか。こいつらどういう神経をしているんだ?そういう悪しき職場環境が、私を現在のような病状に追い込んでいるのだと会社に訴えたつもりだったが、代表取締役までグルになってこんな差別的な捏造をするようなアンフェアな会社とは、いったいどういう会社なんだ?一方で、わざわざ“本人希望制”などといって、職場環境についての苦情を含めて話を聞いておきながら、其の事はわざと明確にしていない。この制度の“建前”では、何を話したかの記録をきちんと残してあるはずだが、それは一切出してこない。苦情や改善要望、配置転換の希望など聞いたことがないことにしたいらしい。そりゃそうかもね。他ならぬ犬山や白河自身が直接に私から苦情を受けていたなどと認めてしまったら、自らの難癖難癖と明らかにするようなものだ。そうかと思えば、木下や早田など、すでに退職してしまっている総務担当者の証言は、本人たちが「昔の話だから良く覚えていない」と言ったと書いてある。そんな都合のいい「反証」があるか!こんなの単なる一方的なウソで、いいオトナが責任逃れするために勝手な作り話をしているだけじゃないか!

 しかも、いくら何でも、自分たちが責任を取らないで済ますために「唐島を悪者にした方が自分たちにも都合がいいから」と、酒の上とはいえ、暴行、傷害事件の加害者とグルになって被害者を加害者に仕立て上げるとは、いったいこの犬山や白川たちの辞書には、“モラル”という言葉はないのだろうか?下島の行為自体が十分名誉毀損だと思うのだが、これが会社ぐるみとなれば人権侵害もいいところではないのか?
 まあ、下島の作り話に合わせて、自分が意味もなく下島にぶたれたことを「よく覚えていない」という都留嬢のような人までいるくらいから、後付けでウソをつこうという人にはもっと罪悪感などないのかもな。
 自分の“暴行傷害事件”の言い逃れに、被害者を加害者に仕立て上げようとまでする下島の行動には、「なんと品性下劣な男か」と思い、それに協力する阿久根たちにも腹が立つより呆れたが、タンコウ社では代表取締役まで同じ行動パターンなのだ。まあ、だから“仲良し”なのかもね。



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